
| 読了時間:約8分
大学の教職員といえば、安定した雇用と整った労働環境を思い浮かべる人も多いだろう。
東洋大学 (東京)が、教職員への残業代を 20年以上にわたって一部未払いにしていた 。
2025年10月、 王子労働基準監督署 から労働基準法違反として 是正勧告 を受けたことが、 読売新聞の報道 で明らかになった。
未払い額は 年間約1800万円 に上るとされる。
単純計算で20年分と合わせると、3億円を超える規模になりうる。
なぜ学問と法律の専門家が集う大学で、これほど長い間、違法状態が続いたのか。
事件の全容・構造的な背景・今後の法的展開の3点を整理する。
この記事でわかること
東洋大学に何が起きたのか──年間1800万円・20年超の未払い
大学の教職員は安定・ホワイトというイメージは、今回の事案で根底から覆される。
読売新聞の報道 によると、東洋大学は2025年10月、 王子労働基準監督署 から労働基準法違反として 是正勧告 を受けた。
教職員への残業代の一部が、 20年以上 にわたって未払いだったとされる。
読売新聞報道(2026年4月7日付)
東洋大(東京)が昨年10月、王子労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受け、年間約1800万円の残業代が未払いだったとされる。
法学部も持つ大学が、 20年以上にわたって労働法を守れなかった 。
これが今回の事案の最大の核心だ。
「20年以上」が意味すること
年間約 1800万円 という数字を別の角度から見てみる。
会社員の平均年収(約450万円)の4人分にあたる。
その金額が、毎年払われないまま積み上がっていたことになる。
2000年代初頭から続いていた計算だ。
小泉政権の頃から、ずっと。
その間に働いた教職員が何人いたかは現時点では未確認だ。
対象者数によっては1人あたりの未払い額が相当な規模になりうる。
大学側の具体的な人数やコメントは、調査中の段階だ。
今回の事案を象徴する2つの数字
20年以上・年間約1800万円 ──規模と期間、どちらも普通の残業代トラブルの次元ではない。
では、なぜ20年以上もこの慣行が続いたのか。
大学という組織が抱える構造的な問題に目を向けてみたい。
なぜ20年以上も続いたのか──大学に根付く「残業代問題」の構造
「20年以上、誰も止めなかったのか」。
答えは「止めにくい構造があった」だ。
私立大学と公立学校、制度の溝
私立学校の教職員には、一般の労働者と同じく 労働基準法 が適用される。
法定労働時間を超えれば残業代が発生し、割増賃金の支払いが義務づけられている。
ところが、公立学校の教員は別のルールで動いている。
給特法 という特別措置法により、残業代の代わりに月給の4%相当の手当が一律支給される仕組みだ。
どれだけ残業しても、追加の残業代は発生しない。
この制度の「混同」が、私立大学でも慣行をつくりやすくする。
ハフポスト日本版の報道 では、東洋大学の附属校事案を扱った際、組合代表者がこう指摘している。
私学教員ユニオン・佐藤学代表(ハフポスト日本版より)
「公立だったら労働時間にならない業務が、私学だと労働時間とみなされる。
ダブルスタンダードが鮮明になった 」
公立と私立の制度的なズレが、現場での認識の甘さを生んでいるといえそうだ。
大学は「特別な場所」だったのか
もう一つの背景に、職場文化の問題がある。
ハフポスト日本版 が報じた東洋大附属校の教員は、こう述べた。
教員の声(ハフポスト日本版より)
「教員の熱心なボランティア精神ややりがいにつけ込み、過重労働に拍車をかけてきた」
これは附属校の話だが、大学本体でも同じ構造があったのではないかとみられる。
「教育への使命感」が、労働権への無関心を生む。
東洋大だけの問題ではない
実は、大学での残業代未払い問題は以前から全国に広がっている。
毎日新聞の報道 によると、2022年2月時点で国立大学法人 24法人 が付属校の教員に残業代を支払っていなかったとして、労基署から是正勧告や指導を受けた。
未払いを受けた教員は 2952人 、総額は 計15億5578万円 に達した。
TBSの報道 では、静岡大学が2024年4月に是正勧告を受けたことが明らかになっている。
対象は大学職員 250人 、未払い総額は約 5900万円 だ。
| 機関 | 発覚時期 | 未払い総額 |
|---|---|---|
| 国立大学法人24法人 | 2022年2月 | 計15億5578万円 |
| 静岡大学 | 2024年4月 | 約5900万円 |
| 東洋大学 | 2025年10月 | 年間約1800万円とされる |
国立大の問題が社会問題化した後も、今回のような事案が出てくる。
この構造は個別の組織の問題というより、 日本の大学全体が抱える慣行の問題 だといえそうだ。
2025年6月には 教員給特法の改正法が成立 し、公立教員の給与見直しが進み始めた。
その流れの中で、私立大学本体の問題が改めて注目される状況になっている。
是正勧告を受けた以上、東洋大学に選択肢はない。
問題は、この後の法的展開がどうなるか──そして未払い分は本当に取り戻せるのかだ。
是正勧告の後、東洋大学はどうなるか──法的リスクと今後の展開
「是正勧告を受けたら、もう逮捕されるのか」と思った人もいるかもしれない。
実は、そうとは限らない。
是正勧告とは何か
是正勧告 は、労働基準法違反が確認された際に労基署が交付する行政指導だ。
法的な強制力はなく、それ自体が刑事罰につながるわけではない。
流れを整理するとこうなる。
- 労基署が立ち入り調査を実施
- 法令違反を確認し、是正勧告書を交付
- 期限内に改善報告を提出する
- 改善が確認されれば終結
- 改善されなければ、書類送検・刑事手続きへ
是正勧告は「終わり」ではなく「始まり」だ。
東洋大学が速やかに残業代を支払い、労働環境を整えれば、刑事手続きには至らないだろう。
無視すれば逮捕もありえる
問題は、改善を怠った場合だ。
弁護士法人リーガルプラスによると 、残業代を不当に支払わない場合の罰則は労働基準法第119条第1号に定められている。
労働基準法第119条第1号の罰則
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
是正勧告を無視し続けた場合、使用者(大学の責任者)が書類送検・逮捕の対象になりうる。
これは机上の話ではない。
2025年3月、朝日新聞が報じたところでは、 東大寺学園 (奈良)が残業代未払いを理由に奈良労基署から書類送検された。
教育機関での書類送検という先例が、すでに存在する。
未払い分は取り戻せるか
従業員が未払い残業代を請求できる時効は、現在 3年 だ。
将来的には5年への延長が予定されている。
東洋大の場合、「20年以上」とされる未払いの全額を法的に取り戻すことは難しい。
請求できるのは、時効内の 過去3年分のみ にとどまる。
あなたの職場でも、残業代が正しく払われているか確認したことはあるだろうか。
タイムカードや勤怠記録が残っていれば、過去3年分を遡って請求できる権利がある。
この事件が問いかける本当の問題──「学問の府」が守れなかったもの
ここからは、報道された事実をもとに別の角度から考えてみたい。
確定情報ではなく、構造を読み解く試みだ。
報道が伝えていること
報道の文脈は明快だ。
「大学が違法な残業代未払いをしていた。
労基署が是正勧告を出した」。
事実の整理としてはその通りだ。
しかし、 20年以上 という期間に注目すると、別の問いが浮かぶ。
なぜ、これほど長く「見えなかった」のか。
「自治」が作った見えない壁
大学は、他の組織とは異なる独特の文化を持つ。
学問の自由、教授会自治、そして「外部の介入を嫌う」雰囲気だ。
この自治意識が、労働法の外部チェックを遠ざけてきたのではないか、という見方もある。
労基署の立ち入り調査は「外部からの介入」にあたる。
企業であれば日常的に行われることが、大学では異例の出来事として扱われる傾向がある。
さらに、大学の人事は非常に閉じている。
終身雇用に近い教員、組合活動が限定的な職員、そして「慣習に従うことが安全」という職場文化。
この組み合わせが、 内部からの告発を難しくする構造 をつくっていたかもしれない。
筆者の考察
以下は報道されていない構造分析だ。
事実ではなく、公開情報をもとにした筆者の考察として読んでほしい。
「聖職者」概念の延命
日本の教育現場には、「教員は聖職者だから」という言説が長く存在してきた。
公立校では 給特法 がその概念を制度化し、残業代をなくした。
私立でも、その空気は同様に流れ込んでいる。
「子どものため」「学生のため」という動機を持つ人間ほど、自分の労働権を後回しにしやすい。
これを悪用する組織があるとしたら、それは違法行為だ。
しかし「悪意」がなくても、構造として同じことが起きる。
今回の東洋大の事案が「故意か過失か」は現時点では不明だが、 20年以上続いた事実は、少なくとも制度設計の失敗を示している。
あなたの職場は大丈夫か
「大学でも起きるなら、自分の職場でも」と感じた人は鋭い。
残業代の未払いは、大企業にも中小企業にも、学校にも病院にも起きている。
告発や申告のハードルが高い職場ほど、慣行として続きやすい。
今回の東洋大の是正勧告が、教育機関全体の労働環境を見直すきっかけになるかどうか。
それは今後の報道と、東洋大学の対応次第だろう。
まとめ
- 東洋大学 が2025年10月、 王子労働基準監督署 から労働基準法違反として是正勧告を受けた
- 残業代の未払いは 20年以上 にわたり、年間約1800万円に上るとされる(読売新聞報道・推計値)
- 背景には、公立校との制度的混同と、大学特有の「使命感文化」がある
- 是正勧告に法的強制力はないが、無視すれば書類送検・懲役のリスクがある
- 未払い残業代の請求時効は現在 3年 。過去の全額回収は困難だ
よくある質問(FAQ)
Q1. 是正勧告とは何ですか?
労働基準監督署が法令違反を確認したときに交付する行政指導です。
法的強制力はないが、無視すれば書類送検・刑事罰の対象になりうる。
Q2. 東洋大学の残業代未払いはいつ発覚しましたか?
2025年10月、王子労働基準監督署から是正勧告を受けました。
読売新聞が2026年4月7日に報じました。
Q3. 未払いの残業代はいつまで請求できますか?
現在の時効は3年です。
遡って請求できるのは過去3年分のみで、20年分の全額回収は法的に難しい状況です。
Q4. 是正勧告を無視するとどうなりますか?
書類送検・逮捕の対象になりうる。
労働基準法第119条第1号により、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される場合があります。
Q5. 大学の教職員にも残業代は支払われますか?
私立大学の教職員には労働基準法が適用され、残業代の支払い義務があります。
公立校の教員は別の制度(給特法)が適用されます。
Q6. 他の大学でも同じ問題は起きていますか?
2022年に国立大学法人24法人が是正勧告を受け、計約15億5578万円を支払いました。
2024年には静岡大学でも250人・約5900万円の事案が発覚しています。
Q7. 東洋大学は残業代を支払うのですか?
現時点では公式な支払い計画は未確認です。
是正勧告に従い改善すれば刑事手続きに至らないとみられます。
Q8. 残業代の証拠はどう残せばよいですか?
タイムカードや勤怠管理ソフトの記録が最も有力な証拠です。
業務日報に上司の承認印があるものも有効とされています。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
reaitimenews.com
話題のニュースを「なぜ?」の視点で深掘りするニュースメディアです。
法律・心理学・経済など専門分野の知識をもとに、報道だけではわからない背景や理由をわかりやすく解説しています。
📚 参考文献
- 読売新聞オンライン「東洋大が残業代未払い、20年以上・年間1800万円か…労基署が是正勧告」 (2026年4月7日)【一次情報源・断定根拠】
- ハフポスト日本版「"未払い残業代200万円超"の私立高に労基署が是正勧告」 (2022年10月)【東洋大附属校事案・引用根拠】
- TBS NEWS DIG「残業代の未払いで静岡大学に指導・是正勧告 250人の職員に約5900万円」 (2024年4月)【比較事例】
- 毎日新聞「24国立大法人、教員に残業代未払いで是正勧告 計15億円超」 (2022年2月)【国立大比較事例・断定根拠】
- 毎日新聞「教員給特法など改正法成立 残業代がわり、5年で4→10%に増額」 (2025年6月)【制度的背景】
- 弁護士法人リーガルプラス「残業代未払いの罰則」 【法的根拠・断定根拠】