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トランプ大統領がスペインとの全貿易の遮断を宣言した。
対イラン軍事作戦でスペインが米軍基地の使用を拒んだことへの報復だ。
73年続いた軍事同盟と年間475億ドルの貿易――その裏で何が起きているのか。
この記事でわかること
トランプ大統領「スペインとの貿易はすべて断ち切る」──発言の経緯
トランプ大統領は3月3日、対イラン軍事作戦で基地使用を拒否したスペインに対し「すべての貿易を断ち切る」と宣言した。
共同通信の報道によると、トランプ大統領は3月3日、ホワイトハウスで記者団にこう述べた。
「すべての貿易を断ち切る。スペインとは何も関わりたくない」
発言の場は、ドイツのメルツ首相との首脳会談だった。
ロイターによると、トランプ大統領はドイツが米軍に基地を提供していることに謝意を示している。
同じNATO同盟国でも、片方には感謝し、もう片方には全貿易の遮断を突きつけた。
わずか5日で何が起きたのか
きっかけは2月28日にさかのぼる。
時系列まとめ
2月28日:米国とイスラエルがイランへの軍事作戦「エピック・フューリー作戦」を開始
3月1日:スペインのアルバレス外相が、ロタ海軍基地とモロン空軍基地の対イラン使用を正式に拒否
3月2日:米軍機15機がスペインの両基地から撤退。少なくとも7機がドイツのラムシュタイン空軍基地に着陸
3月3日:トランプ大統領が「全貿易遮断」を宣言
The Guardianによると、撤退した米軍機15機の動きは航空追跡サイトFlightRadar24のデータで確認されている。
アル・マヤディーンの報道では、ロブレス国防相がこれらの航空機の大半はボーイングKC-135空中給油機だったと説明した。
9機がモロンからドイツ方面へ。
2機がロタからフランス南部へ。
残り4機の目的地は不明のままだ。
突然の発言ではなかった
この発言を「突発的な怒り」ととらえるのは早い。
トランプ大統領は2025年10月にも、スペインについて踏み込んだ発言をしている。
ロイターによれば、NATOからの除名を検討すべきだと述べた。
Bloombergは同時期に、スペインは「罰せられるべきだ」という発言と関税検討の事実を報じている。
基地使用の拒否は引き金にすぎない。積年の不満が一気に噴き出した形だ。
では、なぜスペインだけが拒否を貫いているのか。
スペインが基地使用を拒んだ背景──法的根拠と73年の同盟史
スペインの拒否には法的根拠がある。「反米」ではなく、協定に基づく主権の行使だ。
「スペインが反米だから拒否した」と思うかもしれない。
だが話はそれほど単純ではない。
The Hillによると、アルバレス外相はこう述べている。
「共同使用基地はスペインの主権下にある。協定の範囲外、あるいは国連憲章の枠外の活動には使わない」
ロタ海軍基地とモロン空軍基地は米軍が駐留しているが、あくまでスペインの基地だ。
外務省の資料にも「米西防衛協定により、南部の2基地を米軍と共用」と記されている。
米国が自由に使えるわけではなく、協定の条件を外れる使い方ならスペインには拒否する権利がある。
1953年から続く軍事同盟の歴史
衆議院の資料によると、この協定は1953年に締結された。
日本の自衛隊が発足する1年前だ。
以来73年間、スペインとアメリカは基地の共同運用を続けてきた。
その長い関係がなぜ今、揺らいでいるのか。
サンチェス首相と米国の「積もり積もった対立」
背景には、サンチェス首相の政治姿勢がある。
ARAB NEWSによると、サンチェス首相はイスラエルのガザ攻撃を「ジェノサイド(大量虐殺)」と呼んだ欧州初のリーダーの一人だ。
欧州で最もイスラエルに批判的な首脳として知られる。
さらにNATOの防衛費問題がある。
2025年6月、NATOは防衛費をGDP比5%に引き上げる目標で合意した。
だがサンチェス首相は「不合理だ」と反対姿勢を崩さなかった。
対立は3つの層で重なっている
① 法的主張:国連憲章に基づき、協定外の基地使用を拒否
② 中東政策:ガザ問題以来、米国・イスラエルの軍事行動を批判
③ NATO防衛費:GDP比5%を「不合理」として唯一反対を続行
対立の構図はわかった。
ではトランプ大統領が宣言した「全貿易遮断」は、どの程度の現実味があるのか。
米スペイン貿易は年間475億ドル──禁輸は実行されるのか
年間約475億ドルの貿易を断てば、スペインだけでなく米国自身も大きな打撃を受ける。
「全貿易遮断」と聞くと、米国がスペインを一方的に締め上げる絵が浮かぶ。
だがデータを見ると、話は変わってくる。
米国勢調査局の公式統計によると、2025年の米スペイン間の物品貿易はこうなっている。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 米国→スペインへの輸出 | 約261億ドル |
| スペイン→米国への輸出 | 約213億ドル |
| 合計 | 約475億ドル(約7兆円) |
| 米国の貿易黒字 | 約48億ドル |
注目すべきは最後の行だ。
米国側が年間約48億ドルの貿易黒字を得ている。
貿易を断てば、スペインだけでなく米国企業も261億ドル分の販売先を失う。
「制裁する側も痛い」という構造になっている。
トランプ政権下で貿易は1.8倍に成長していた
米国勢調査局の過去データがさらに興味深い事実を示す。
トランプ第1期の2017年、米スペイン貿易の合計は約267億ドルだった。
2025年は約475億ドル。
2017年(第1期)
約267億ドル
2025年(第2期)
約475億ドル(1.8倍)
自らの任期中に深まった経済関係を、自らの手で断ち切ると宣言したことになる。
本当に全面禁輸は実行されるのか
⚠️ ここからは推測です
以下の分析は報道された事実に基づく推測であり、確定情報ではありません。
2025年10月にもトランプ大統領はスペインへの関税を「検討した」とBloombergが報じた。
だが実行には至らなかった。
NATO同盟国への全面禁輸は前例がない。
EU加盟国であるスペインに対する一方的な措置は、WTOルールとの整合性も問われるだろう。
口頭での宣言は出たが、大統領令への署名や具体的な手続きは3月3日時点で確認されていない。
ポイント
年間475億ドル、米国側の黒字48億ドル。禁輸が実現すれば、制裁する側も傷を負う。全面実施のハードルは高いが、何らかの貿易上の報復措置が出てくる展開は十分にあり得る。
スペインだけが孤軍奮闘しているわけでもない。
他の欧州諸国の対応を見ると、事態の複雑さがさらに浮かんでくる。
英国は方針転換、ドイツは協力──欧州で割れるイラン攻撃への対応
欧州は一枚岩ではない。基地使用への対応は「全面拒否」「条件付き許可」「積極協力」と三者三様に割れている。
欧州は「一枚岩で米国を支持」しているわけでも、「一枚岩で反対」しているわけでもない。
実態は三者三様だ。
| 国 | 基地使用 | 主な対応 |
|---|---|---|
| スペイン | 全面拒否 | 「国連憲章の枠外には使わない」と明言。米軍機15機が撤退 |
| 英国 | 当初拒否→条件付き許可 | キプロスの基地にドローン攻撃を受けた後、「防衛目的に限り」許可へ転換 |
| ドイツ | 協力 | ラムシュタイン基地への米軍機受け入れを許可。トランプ大統領が謝意 |
英国が方針を変えた「引き金」
注目すべきは英国の動きだ。
The Guardianによると、スターマー首相は当初、イラン攻撃の合法性に疑問を呈し、基地使用を認めなかった。
攻撃を受ける前は、英国もスペインと同じ立場だった。
転換点は3月1日だ。
BBCによると、キプロスの英軍基地にドローンが着弾した。
人的被害はなかったが、自国の基地が攻撃された事実が判断を変えた。
スターマー首相は「防衛目的に限り」基地使用を認めると表明した。
つまり英国は「攻撃されて初めて協力に転じた」ことになる。
スペインの「拒否」はいつまで続くのか
⚠️ ここからは推測です
以下は報道された事実に基づく分析であり、確定情報ではありません。
スペインがまだ直接的な攻撃を受けていないことは、拒否を貫ける大きな理由だろう。
英国のように基地が攻撃される事態になれば、判断が変わる展開もあり得る。
一方で、サンチェス首相のこれまでの姿勢を見ると、ガザ問題でもNATO防衛費でも欧州で最も強硬な立場を取り続けてきた。
外部からの圧力で簡単に折れる政治家ではないという見方もある。
欧州の対応まとめ
「スペイン=全面拒否」「英国=攻撃されて方針転換」「ドイツ=最初から協力」と、NATO同盟のなかでもイラン攻撃への姿勢はまったく一致していない。
ロイターによると、メルツ独首相は3日の会談でウクライナ情勢も議題に挙げた。
イランだけでなく、ウクライナ、貿易、防衛費。米欧関係の火種は一つではない。
NATO同盟国ですらこの対応になる。
在日米軍基地を抱える日本にとっても、決して他人事ではないだろう。
まとめ
- トランプ大統領は3月3日、スペインとの「全貿易遮断」を宣言した。直接の引き金は対イラン軍事作戦での基地使用拒否
- スペインの拒否には法的根拠がある。1953年の防衛協定と国連憲章に基づく主権行使で、突発的な反米行動ではない
- 米スペイン貿易は年間約475億ドル。米国は約48億ドルの黒字を得ており、遮断すれば米国側も打撃を受ける
- 欧州の対応は三分裂している。英国は攻撃を受けて方針転換、ドイツは当初から協力、スペインは全面拒否
- 全面禁輸の実行にはハードルが高いが、何らかの貿易上の報復措置は十分あり得る
よくある質問(FAQ)
Q1. スペインには米軍基地はありますか?
南部のロタ海軍基地とモロン空軍基地の2か所を、1953年の防衛協定に基づき米軍と共同使用しています。
Q2. なぜスペインは米軍に基地の使用を認めなかったのですか?
国連憲章の枠外の活動には基地を使わないという協定上の立場と、イラン攻撃を国際法違反と判断したためです。
Q3. 米国とスペインの貿易額はどのくらいですか?
2025年の物品貿易総額は約475億ドル(約7兆円)で、米国側が約48億ドルの黒字です。
Q4. トランプ大統領の禁輸措置はいつから実施されますか?
3月3日時点で大統領令の署名や具体的手続きは確認されておらず、実施時期は未定です。
Q5. 英国はイラン攻撃で基地使用を認めましたか?
当初は拒否しましたが、キプロスの英軍基地にドローン攻撃を受けた後、防衛目的に限り許可しました。
Q6. ドイツはイラン攻撃にどう対応しましたか?
ラムシュタイン空軍基地への米軍機の受け入れを許可し、トランプ大統領から謝意を受けています。
Q7. エピック・フューリー作戦とは何ですか?
2026年2月28日に米国とイスラエルが開始したイランへの軍事作戦の名称です。
Q8. 日本の米軍基地にも影響はありますか?
現時点で直接の影響は報じられていませんが、同盟国間の基地使用問題として注視が必要です。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- 北國新聞(共同通信)「トランプ氏、スペインに禁輸措置を警告」(2026年3月4日)
- The Guardian「Spain denies US permission to use jointly operated bases to attack Iran」(2026年3月2日)
- Middle East Monitor「Trump says he will sever trade with Spain in retaliation for base refusal」(2026年3月3日)
- The Hill「Spain says it won't let US use air bases for Iran strikes」(2026年3月3日)
- ロイター「米独首脳が会談、イラン紛争や貿易巡り協議」(2026年3月3日)
- U.S. Census Bureau「Trade in Goods with Spain」(2025年データ)
- 外務省「スペイン王国基礎データ」
- 衆議院「日本にとってのスペインの意義」(2025年8月)
- ロイター「NATO、スペイン除名を検討すべき」(2025年10月9日)
- Bloomberg「トランプ氏、対スペイン関税の可能性示唆」(2025年10月15日)
- アル・マヤディーン翻訳「基地の使用をめぐる論争の後、米軍機がスペインから撤退」(2026年3月3日)
- BBC「スターマー英首相、米・イスラエルのイラン攻撃めぐりトランプ氏と」(2026年3月3日)
- ARAB NEWS「イスラエル首相がスペインを『大量虐殺の脅威』と非難」(2025年9月12日)