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国が作った補助金を、全体の4分の3以上の自治体が使っていない。
こども家庭庁が2024年度に設けた付き添い入院の環境改善補助金。
2026年2月、NPO法人キープ・スマイリングの全国調査で、47都道府県中わずか11しか活用していない実態が明らかになった。
なぜ予算があるのに使われないのか。
制度の構造問題と、付き添い入院の壮絶な現実を読み解く。
この記事でわかること
47都道府県中わずか11――付き添い入院の補助金が使われない3つの原因
予算はある。制度もある。それでも使われない。
📊 全国調査の結果
キープ・スマイリングの全国調査によると、こども家庭庁が令和6年度に創設した「入院中のこどもの家族の付添い等に関する環境改善事業」を令和7年度に実施したのは、47都道府県のうち実施はわずか11。
予算1.9億円に対し、申請額は約1億円にとどまった。
国が補助金を用意すれば自治体は活用する。
そう思いがちだが、現実はまるで違う。
令和8年度も「実施予定なし」と回答した自治体は16にのぼる。
そのうち8自治体は担当部署すら決まっていない。
制度を検討するスタートラインにすら立っていないのだ。
なぜ自治体は手を挙げないのか
原因は大きく3つある。
| 原因 | 内容 |
|---|---|
| ① 担当部署の未設定 | 16自治体中8つが「どの部署が担当するか未定」。検討すら始まらない |
| ② 都道府県の費用負担 | 補助率は国1/2、都道府県1/2。自治体も同額の予算を確保する必要がある |
| ③ 補助対象の限定性 | 親への直接給付ではない。対象は病院の設備購入費のみ |
見落としがちなのが3つ目の原因だ。
この補助金は、病院が簡易ベッドや電子レンジ、休息スペースを整備する費用に使われる。
つまり、お金が届くのは病院であって、付き添い中の親ではない。
予算1.9億円は本当に「十分」か
1.9億円という数字だけを見ると、それなりの規模に思える。
だが47都道府県で割ると、1自治体あたり約400万円。
小児科の病床を持つ病院は各県に複数ある。
1病院あたりに換算すれば、ベッド数本と電子レンジ1台分程度にしかならないだろう。
⚠️ ここからは推測です
補助金の流れは「国→都道府県→病院」という多段階の構造になっている。
国が制度を作っても、間に立つ都道府県が予算を組まなければ、現場の病院には1円も届かない。
この多段階構造こそが、補助金が眠ったままになる根本的な原因ではないだろうか。
では、この補助金で解決しようとしている付き添い入院は、どれだけ過酷なのか。
3,600人超の調査データが映す現実を見ていく。
親の2人に1人が体調悪化――3,600人調査が映す付き添い入院の壮絶な現実
柵付きの小さなベッドで子どもと添い寝する。食事はコンビニのカップスープかレトルト食品。夜中に何度も鳴る医療機器のアラーム。これが付き添い入院の日常だ。
子どもの入院は予告なくやってくる。
この現実を知っているかどうかで、備えはまるで変わる。
食事・睡眠・体調――すべてが崩れる
キープ・スマイリングが3,643人を対象に行った実態調査の結果は衝撃的だ。
📋 3,643人調査の主な結果
付き添い中に体調を崩した親は51.3%。
経済的な不安を感じた親は71.5%。
食事は院内コンビニや売店で調達が65.1%を占め、2人に1人が子どもと同じベッドで寝ていた。
就寝中に熟睡できなかった人は8割超。
1日のうち6時間以上をケアに費やした親は全体の80.9%にのぼる。
つきそい応援団の調査でも、1か月以上の付き添い経験者では72%が体調を崩したと報告されている。
入院が長引くほど、親の身体は確実に壊れていく。
親は「見守り役」ではなく「看護の代替」
病院に入院すれば医療スタッフが看てくれる → 実際は親が看護の代替を担っている。
多くの人がそう思っているだろうが、実態は違う。
同調査によると、付き添い中の親の9割が食事介助や排泄ケアを担っていた。
入浴介助や服薬の管理も8割が経験している。
さらに、気管切開のケアや人工呼吸器の管理など、本来は医療従事者が行うべき行為まで親が担うケースも報告された。
⚠ 看護師不足の実態
「看護師が忙しくて十分に面倒を見てもらえない」と感じた親は83.8%。
ナースコールを押しても来ない、アラームが鳴っても見に来ないといった声が多数寄せられた。
節約のために飲食費を削った親は69.6%。
簡易ベッドのレンタル代を惜しんで借りなかった人も24.1%いた。
中には車中泊をしていた人もいる。
経済的な不安と過酷な環境が、同時に親を追い詰めている。
「選択権なき付き添い」という矛盾
もうひとつ見過ごせない事実がある。
調査では、付き添いが必須だった人が全体の7割を占めた。
8割は病院から要請されている。
親が自ら望んだわけではなく、実質的に拒否できない状況なのだ。
それにもかかわらず、書面上は「親の希望で付き添っている」ことにされていた。
付き添い願い書に署名した人は70.6%。
選択権がないまま「あなたの希望です」と処理される。
この構造的な矛盾は、付き添い入院経験者のnote記事でも「気が狂うほどのストレス」と表現されている。
これだけ深刻な実態がありながら、補助金は47都道府県中11しか使われていない。
では、自ら動いている自治体は何が違うのか。
先行する3県と令和8年度予算2億円――制度改善の兆しと残る課題
「どこの自治体も似たようなもの」ではない。
国の補助金とは別に、独自の予算で付き添い家族を支援している自治体がある。
キープ・スマイリングの調査で確認されたのは、青森県、大分県、鳥取県の3県だ。
国の制度と真逆のアプローチ
3県に共通するのは、お金の届け先が国制度と異なる点だ。
| 国の補助金制度 | 先進3県の独自支援 | |
|---|---|---|
| 届け先 | 病院(設備購入費) | 親(交通費・宿泊費等) |
| 支援の形 | 簡易ベッド、電子レンジ等 | 現金給付や費用助成 |
| 親への効果 | 間接的 | 直接的 |
たとえば鳥取県は、小児慢性特定疾病の子どもが5日以上入院する場合、親の宿泊費を助成している。
大分県も同様に宿泊費の助成制度を設けた。
病院ではなく親に直接届く支援だ。
国の制度が「病院の環境を整える」アプローチなのに対し、3県は「親の生活費を直接減らす」設計になっている。
前述のnote記事で経験者が指摘したとおり、モノやスペースだけでは親のストレスは十分に減らない。
両方のアプローチが揃って初めて、付き添い環境は変わるのだろう。
令和8年度は改善するのか
明るい兆しもある。
📈 令和8年度の見通し
キープ・スマイリングの調査では、令和8年度に16自治体が実施を検討中と回答した。
令和8年度の予算は2億円に増額される見込みだ。
ただし、手放しでは喜べない。
令和8年度も実施予定なしと回答した16自治体のうち、8自治体は担当部署が決まっていない。
予算が増えても、受け皿となる自治体の体制が整わなければ、同じことが繰り返されるのではないか。
⚠️ ここからは推測です
制度の根本的な課題は、補助金が「モノ(設備)」に限定されている点にある。
親の食事、睡眠、精神的な負担への直接的な効果は限られたままだ。
先進3県のように国制度と独自の支援策を組み合わせるモデルが広がらなければ、付き添い入院をめぐる状況は大きくは変わらないだろう。
まとめ
- 付き添い入院の環境改善補助金を実施した自治体は47都道府県中11のみ。予算の消化率は約5割
- 使われない原因は「担当部署の未設定」「都道府県の費用負担」「補助対象が設備限定」の3つ
- 付き添い入院中、親の2人に1人が体調を崩し、7割が選択権なく付き添わされている
- 青森・大分・鳥取の3県は独自予算で親への直接支援を実施
- 令和8年度は予算増額と16自治体の検討開始で改善の兆しがあるが、体制未整備の自治体が壁になる
付き添い入院の問題は、当事者にならないと気づきにくい。
だが子どもの入院はいつ起きてもおかしくない。
自分の住む都道府県がこの補助金を活用しているか、まずはそこから確認してみてほしい。
よくある質問(FAQ)
Q1. 付き添い入院の補助金制度とは何ですか?
こども家庭庁が令和6年度に創設した制度で、病院が簡易ベッドや休息スペースを整備する費用を国と都道府県が補助する仕組みです。
Q2. 補助金を実施している自治体はいくつですか?
2025年度に実施したのは47都道府県中11自治体のみ。予算1.9億円に対し申請は約1億円にとどまりました。
Q3. なぜ補助金が活用されないのですか?
担当部署が未決定の自治体が8つあること、都道府県も費用の半分を負担する必要があること、対象が病院設備に限られることの3点が原因です。
Q4. 付き添い入院はどのくらい大変ですか?
3,643人調査で51.3%の親が体調を崩し、65.1%がコンビニ食、2人に1人が子どもと同じベッドで寝ていました。
Q5. 付き添い入院を断ることはできますか?
制度上は任意ですが、調査では7割が「必須」と回答。8割が病院から要請されており、断りにくいのが実態です。
Q6. 独自に付き添い家族を支援している自治体はありますか?
青森県・大分県・鳥取県の3県が国制度とは別に交通費や宿泊費の補助を独自予算で行っています。
Q7. 補助金は親に直接支給されますか?
国の補助金は病院の設備整備費に充てられるもので、親への直接給付ではありません。親への直接支援は一部自治体の独自制度のみです。
Q8. 令和8年度は補助金制度が改善されますか?
予算は2億円に増額される見込みで、16自治体が実施を検討中です。ただし8自治体は担当部署が未決定のままです。
Q9. 自分の自治体が補助金を活用しているか確認するには?
都道府県の母子保健担当部署に問い合わせるか、キープ・スマイリングの調査結果を参照するのが確実です。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- PR TIMES「【速報】全国47都道府県対象 こども家庭庁創設の補助金事業 実施状況調査結果を発表」(2026年2月27日)【権威:全国調査データ】
- こども家庭庁「入院中のこどもの家族の付添い等に関する環境改善事業」施策集PDF【権威:制度の仕様・補助率・補助単価】
- PR TIMES「3,643人の声から解明。行政と医療制度に取り残された劣悪な環境下にある付き添い家族の実態」(2023年6月1日)【専門:3,643人実態調査】
- つきそい応援団「付き添い入院での食事・睡眠・体調は?」【専門:食事・睡眠・体調データ】
- note「付き添い入院費用補助金事業十分に活用されず」で思うこと(2026年2月)【補完:経験者の体験談・制度提言】
- 鳥取県「小児慢性特定疾病児童等長期入院時付添支援事業助成金」【権威:鳥取県独自支援制度】
- 大分県「小児慢性特定疾病児童等付き添い支援事業(宿泊費助成)」【権威:大分県独自支援制度】