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「AI作品に著作権はない」——そう受け止めたなら、半分だけ正しい。
2026年3月2日、アメリカ最高裁がAI著作権をめぐる訴訟の審理を拒否した。
ただし否定されたのは「AIが著作者になれるか」という1点だけで、人間がAIを使った作品の著作権は否定されていない。
判決の核心から8年間の訴訟経緯、日本の状況まで読み解いていく。
「AIは著作者になれない」——判決が否定したものと否定していないもの
最高裁は何を決めたのか
最高裁が棄却したのは「AIが著作者になれるか」の1点だけ。人間がAIを使った作品の著作権は否定されていない。
SCOTUSblogによると、最高裁が棄却したのは事件番号25-449、Thaler v. Perlmutterだ。
争点はひとつ。「AIシステムが人間の直接的な創作関与なしに出力した作品に著作権が認められるか」。
最高裁の判断
最高裁の答えは「審理しない」。つまり、下級裁判所の「No」がそのまま確定した。
「AI生成物の著作権がすべて否定された」と思った人もいるだろう。
SNS上でも「AIで作ったものに著作権はない」という反応が広がっている。
ところが、D.C.巡回控訴裁の判決文を読むと景色が変わる。
AI生成物の著作権がすべて否定された → 否定されたのは「AIが著作者になれるか」の1点だけだ。
判決文にはこう書かれている。
「このルールが要求するのは、著作者が人間であること——AIを作った人、操作した人、使った人——だけであり、機械そのものではない」(D.C.巡回控訴裁判決文より)
つまり著作者が人間であればよい。
AIはあくまで道具という扱いだ。
なぜ著作権法は「人間」を求めるのか
理由はシンプルだ。
著作権法は「創作へのご褒美」として作られた仕組みだからだ。
人間は著作権という経済的な報酬があるから作品を作る。
しかしAIは報酬をもらっても創作意欲が増すわけではない。
判決文も「機械は経済的インセンティブに反応しない」と明言した。
さらに判決文は、著作権法の条文構造からも人間を前提としていると論じた。
著作権の保護期間は「著作者の生涯+死後70年」と定められている。
AIには寿命がない。相続人もいない。署名もできない。
著作権法の前提
著作権法の条文に出てくる「生涯」「相続人」「署名」「国籍」——すべて人間を前提とした言葉だ。AIをここに当てはめると、どの条文も意味をなさなくなる。
カメラにたとえると分かりやすい。
写真の著作者はカメラではなくシャッターを押した人間だ。
AIも同じで、使った人間が著作者になる。
| AI名義で申請 | 人間名義で申請 | |
|---|---|---|
| 著作者欄 | AIの名前 | 人間の名前 |
| 著作権局の判断 | 却下 | 登録の余地あり |
| 今回の判決の影響 | 直撃(全面否定) | 影響なし(争点の外) |
あなたがAIで画像を作って誰かにコピーされたらどうする。
この問いに直面する人は今後も増え続けるだろう。
答えのカギは「誰を著作者として申請するか」にある。
では、なぜセイラー氏はわざわざAIの名前で申請したのか。
8年に及ぶ法廷闘争の経緯を追うと、真の狙いが見えてくる。
セイラー氏はなぜ「負ける戦い」を8年も続けたのか
申請書に「AIの名前」を書いた男
セイラー氏は人間名義で申請すれば著作権を取れた可能性がある。しかし、あえてそうしなかった。
2018年、ミズーリ州セントチャールズに住むコンピューター科学者スティーブン・セイラー氏は、ある著作権申請書を提出した。
作品名は「A Recent Entrance to Paradise」。線路がポータルへ続いていく幻想的な画像だ。
Reutersの報道によると、セイラー氏はこの画像をAIの「Creativity Machine」が自律的に生成したと説明している。
異例だったのは申請書の書き方だ。
著作者欄にAIの名前だけを記入し、セイラー氏自身は「所有者」とだけ名乗った。
人間名義で出せば通った話を、あえてAI名義にした。
判決文によると、セイラー氏は著作権局への再考申請でも「この作品は伝統的な人間の著作者性を欠いている——AIが自律的に生成したものだ」と自ら認めている。
これは意図的な選択だった。
AIに法的な「著作者」の地位を与える前例を作ること。それがセイラー氏の目的だったのだろう。
4つの裁判所が出した同じ答え
セイラー氏の訴訟は4つの段階を経た。
① 2022年
米著作権局が最終却下。「人間が創作に関与していない」
② 2023年
連邦地裁のハウエル判事が却下を支持。「人間の著作者性は著作権の根幹的要件」
③ 2025年3月
D.C.巡回控訴裁のミレット判事が全員一致で棄却
④ 2026年3月2日
最高裁がcertiorari(審理申立て)を棄却
4つの機関すべてが同じ結論を出した。「AIは著作者になれない」。
Reutersによると、トランプ政権もこの訴訟について最高裁に審理しないよう求めていた。
政権は「著作権法は"著作者"を定義していないが、複数の条文が人間を指していることは明らかだ」と主張した。
セイラー氏は著作権だけでなく特許でも同じ戦略を試みている。
AIの「DABUS」が発明した食品容器と懐中電灯の特許を、DABUSを発明者として申請した。
結果は同じだった。2023年に最高裁が審理を拒否し、「AIは特許の発明者として認められない」が確定している。
著作権でも特許でも全敗。
それでもこの訴訟は「無意味な戦い」ではなかった。
判決文にスタートレックが登場した理由
D.C.巡回控訴裁のミレット判事は、判決文の中で意外な名前を出した。
スタートレックのデータ少佐だ。
「スタートレックのデータはChatGPTより詩がへたかもしれないが、データの知性は人間と同等だ。議会と著作権局がこの問題に取り組む時間は十分にある」(判決文より)
連邦裁判所の公式判決文にSFのキャラクターが登場するのは極めて珍しい。
ミレット判事はここで2つのことを言っている。
ひとつは、今のAIはまだ「人間と同等の知性」を持っていないという事実認定だ。
もうひとつは、将来そうなったら法律を変えるのは議会の仕事だという線引きだ。
Decryptの取材に答えたケンタッキー大学法学教授のブライアン・フライ氏は、セイラー氏の訴訟をこう評した。
「セイラー氏と弁護士たちは著作権法の形而上学に関する、概念的に本当に難しい問いを投げかけている」。
敗訴を重ねても、セイラー氏は法の限界線がどこにあるかを明らかにした。
しかしAI著作権をめぐる法的議論は、終わるどころかこれから本格化する。
AI著作権の「本当の争い」はこれから始まる
次の焦点はAllen v. Perlmutter
実務上はるかに重要な問い——人間がAIをどこまで使えば著作者として認められるか——は、まだ未決着だ。
セイラー氏の訴訟は「AIが著作者になれるか」という極端な問いに答えたにすぎない。
実務でほとんどの人が知りたいのは、もっと現実的な線引きだ。
Decryptの報道によると、セイラー氏の弁護士ライアン・アボット氏は最高裁の棄却後こう述べた。
「巡回区間の判断が割れるのを待つのは残念だが、コロラド州のAllen v. Perlmutter事件に期待している」。
Allen v. Perlmutterとは
Allen v. Perlmutterは、AIアートコンテストで受賞歴のあるアーティスト、ジェイソン・アレン氏が起こした訴訟だ。アレン氏はMidjourneyで600回以上プロンプトを試行錯誤し、画像生成後にも加工を重ねたと主張している。著作権局はこれも却下した。
セイラー訴訟は「AIだけで作った作品」の話。
Allen訴訟は「人間がAIを使って作った作品」の話。
争点がまるで違う。
カメラの例に戻ると、セイラー氏は「カメラが勝手に撮った写真にも著作権を」と言った。
アレン氏は「構図を考え、設定を調整し、シャッターを押した写真にも著作権を」と言っている。
フライ教授も「経済的な利害がもっと明確な原告が現れれば、この問題は必ず再浮上する」と予測した。
著作権局の最新見解——プロンプトだけでは足りない
2025年1月、米著作権局が報告書を公表した。
結論は明快だ。テキストプロンプトだけで生成されたAI作品は著作権で保護されない。
ただし「人間が十分な創作的表現を決定した場合」には保護されうる余地を残している。
ではどこまでが「十分」なのか。この線引きは明確になっていない。
Patently-Oの分析によると、政府反論書にはDOJ(司法省)の弁護士だけが署名し、著作権局の弁護士は含まれていなかった。
通常は両方が署名するため、両者の間に微妙な温度差があるのではないかとの見方もある。
日本のAI著作権はどうなっているか
アメリカだけの話ではない。
日本の文化庁も同じ立場をとっている。
文化庁の資料によると、AI生成物は「思想又は感情を創作的に表現したもの」に該当しないため、原則として著作物ではない。
ただし人間が創作的に関与した場合は個別に判断するとしている。
| アメリカ | 日本 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 「著作者=人間」解釈(判例) | 「思想又は感情の創作的表現」要件 |
| AI単独生成物 | 著作権なし(確定) | 原則 著作物ではない |
| 人間がAIを使った作品 | 未確定(Allen訴訟で争点に) | 個別判断(創作的関与の程度) |
日米とも「人間の関与」がカギになっている点は共通だ。
ただしアメリカが判例の積み重ねで線引きを進めているのに対し、日本は文化庁のガイドラインが先行している。
フライ教授の言葉を借りれば、「ほぼ全員が人間の著作者性は必要だと言っているが、"人間の著作者性"が何を意味するのかは誰も分かっていない」。
まとめ
- 2026年3月2日、米最高裁がThaler v. Perlmutterの審理を棄却した
- 否定されたのは「AIが著作者になれるか」の1点。人間がAIを使った作品の著作権は否定されていない
- 「人間がAIをどこまで使えば著作者か」は未決着。コロラド州のAllen v. Perlmutter訴訟が次の焦点
- 日本でも文化庁が原則「AI単独生成物は著作物ではない」としつつ、人間の関与次第で個別判断する立場
AIで画像やイラストを作っている人がまず確認すべきは、自分の作品に「人間としての創作的な関与」がどこまであるかだ。
プロンプトを打ち込むだけなのか、構図・色彩・構成を自分で判断しているのか。
その線引きがこれからの裁判で明らかになっていく。
よくある質問(FAQ)
Q1. AIは著作権が認められないのはなぜですか?
著作権法が著作者を人間前提で設計しているためです。寿命・相続・署名の規定がすべて人間を想定しており、AIをそこに当てはめると条文が機能しなくなります。
Q2. AI生成画像に著作権はつかないのですか?
AIが単独で生成した作品には著作権がつきません。ただし人間が著作者として申請すれば保護される余地があります。
Q3. 人間がAIを使って作った作品の著作権はどうなりますか?
未確定です。米著作権局は「プロンプトだけでは不十分」としつつ、人間の創作的関与があれば保護されうるとしています。
Q4. セイラー氏はなぜ人間名義で著作権を申請しなかったのですか?
AIに法的な「著作者」の地位を与える前例を作ることが目的のテストケースだったためです。
Q5. 日本ではAI生成物の著作権はどうなっていますか?
文化庁の見解では原則として著作物に該当しません。ただし人間の創作的関与がある場合は個別に判断されます。
Q6. Allen v. Perlmutterとは何ですか?
AIアートコンテスト受賞作の著作権を争う訴訟です。「人間がAIを使った作品」の著作権が争点で、コロラド州で進行中です。
Q7. AI生成画像を商用利用しても大丈夫ですか?
著作権で保護されない場合、第三者にコピーされても法的に対抗しにくくなります。利用規約の確認と人間の創作的関与の記録が重要です。
Q8. Thaler v. Perlmutterとはどんな訴訟ですか?
コンピューター科学者セイラー氏がAIを唯一の著作者として著作権を申請し、8年間争った末に最高裁が棄却した事件です。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- Reuters「US Supreme Court declines to hear dispute over copyrights for AI-generated material」(2026年3月2日)
- SCOTUSblog「Thaler v. Perlmutter」
- Decrypt「Supreme Court Declines AI Copyright Case, Extending Legal Setback for AI-Generated Works」(2026年3月2日)
- D.C.巡回控訴裁「Thaler v. Perlmutter, No. 23-5233 判決文」(2025年3月18日)
- Patently-O「Government Urges Supreme Court to Deny AI Copyright」(2026年1月30日)
- GIGAZINE「『AIが生成した画像の著作権はAIが保有する』と主張する訴訟の審理をアメリカ最高裁が棄却」(2026年3月3日)
- 文化庁「AIと著作権」
- 米著作権局「Copyright and Artificial Intelligence, Part 2: Copyrightability Report」(2025年1月29日)