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札幌のホテルで香港人がビール瓶で殴られた。
中国はまた訪日自粛を呼びかけた。
ただ、この事件は「きっかけ」であっても「始まり」ではない。
2025年11月から続く訪日自粛の呼びかけは、今回で少なくとも6回目にあたる。
そして最新データは、中国人客6割減の裏で進む構造変化を映し出している。
この記事でわかること
札幌のホテルで何が起きたのか──食事マナーが引き金の傷害事件
2026年2月18日の午前1時すぎ。
札幌市中央区のホテル内レストランで、傷害事件が起きた。
HBC北海道放送の報道によると、香港から来た52歳の男性観光客が、日本人の50歳の男にビール瓶で頭を殴られた。
被害は頭に軽いけが。
報道では「切り傷」とされている。
「暴行事件」と聞くと重傷を連想するかもしれない。
だが警察の発表では、被害は軽傷だ。
2人に面識はなかった。
同じレストランで別々に酒を飲んでいた。
UHBの報道によると、加害者は札幌市南区に住む自称会社役員の男(50)。
食事マナーをめぐって口論になり、暴行に発展したとみられている。
ただし、何のマナーが問題だったかは報じられていない。
警察が経緯を調べている段階だ。
「殴ったが、けがはさせていない」──矛盾する供述
加害者の供述には奇妙な点がある。
認めていること
「瓶でたたいたことは間違いない」
否認していること
けがをさせたこと
ビール瓶で頭を殴っておいて「けがはさせていない」と主張する。
この不自然さが、事件の異様さを浮かび上がらせる。
ホテルの従業員が「客と客がもめている。頭を殴られた」と110番通報。
駆けつけた警察官がその場で現行犯逮捕した。
実は2か月前にも──札幌で続く外国人暴行事件
この事件には見落としがちな伏線がある。
同じ札幌で、2か月前にも外国人観光客が暴行を受けていた。
| 2026年2月 | 2025年12月 | |
|---|---|---|
| 被害者 | 香港人男性(52歳) | 韓国人男性 |
| 加害者 | 日本人男性1人 | 日本人5人組 |
| きっかけ | 食事マナー | 金銭要求を拒否 |
| 被害程度 | 頭に軽傷(切り傷) | 前歯3本が折れる重傷 |
Record Chinaの報道によると、2025年12月には韓国人男性がすすきの周辺で5人組に襲われた。
前歯3本を折る重傷を負っている。
被害の深刻さでいえば、12月の韓国人事件のほうが明らかに重い。
しかし中国政府が外交問題として取り上げたのは、軽傷で終わった今回の事件だった。
では、なぜ飲食店の個人的なトラブルが国家間の問題に発展するのか。
答えは、2025年11月以降の「訪日自粛」の流れを見ればわかる。
「何度目の訪日自粛か」──理由を変えて繰り返される呼びかけの全体像
今回の呼びかけが「初めて」だと思っている人は多いだろう。
だが事実はまるで違う。
訪日自粛の呼びかけ回数
2025年11月以降、中国政府が訪日自粛を呼びかけた回数は少なくとも6回。
そのたびに理由が異なる。
中央日報日本語版の報道や各メディアの情報を時系列で整理すると、こうなる。
① 2025年11月14日
高市首相の台湾有事発言を受け、中国外務省が訪日自粛を呼びかけ
② 2025年11月下旬
「複数の中国人が暴言・暴行を受けている」と追加発信
③ 2025年12月
青森県沖の地震を理由に旅行注意報を再発令
④ 2026年1月26日
春節連休を前に渡航自粛を改めて呼びかけ
⑤ 2026年1月30日
上野の4.2億円強盗事件を受けて訪日自粛を再勧告
⑥ 2026年2月15日
大阪道頓堀の殺傷事件を受けて訪日自粛を呼びかけ
⑦ 2026年2月18日
札幌暴行事件を受けて訪日自粛を呼びかけ
政治発言、自然災害、強盗、殺傷事件、食事マナーのトラブル。
理由が毎回異なるという事実が目を引く。
すべての起点は「台湾有事」発言
この流れの出発点は明確だ。
2025年11月7日の衆議院予算委員会で、高市早苗首相が台湾有事について「存立危機事態になり得る」と答弁した。
日本の安全が根本から脅かされる事態を指す法律用語だ。
HBC北海道放送は「中国政府は去年11月の台湾有事をめぐる高市総理の国会答弁をきっかけに、中国国民に日本への渡航自粛を求めるなど反発を強めています」と報じている。
つまり、個別の事件はあくまで「追加の口実」にすぎない。
台湾問題で日中関係が冷え込んだ後、中国側はあらゆる出来事を理由にして訪日自粛のメッセージを更新し続けている。
⚠️ ここからは推測を含みます
理由のジャンルがバラバラであること自体が、この呼びかけの本質を映し出しているのではないか。
「日本が危険だから行くな」ではなく、「行くなという姿勢を維持する」ことが目的だとすれば、理由は何でもよい。
個別の治安問題ではなく、外交的な意思表示として読み取るほうが実態に近いだろう。
事実として確認できるのは、呼びかけが繰り返されている、そしてそのたびに理由が変わっている、ということだ。
では、この繰り返しは実際にどの程度の影響を生んでいるのか。
データを見てみよう。
中国人6割減でも「打撃を感じない」声──データが示す構造変化
1月の訪日中国人は前年同月比60.7%減。
昨年10人来ていた中国人が4人に減った計算になる。
ところが、訪日客全体に目を向けると景色が違う。
訪日中国人(1月)
60.7%減
訪日客全体(1月)
わずか4.9%減
日本経済新聞の報道によると、1月の訪日客数は全体で359万7500人。
中国以外の国からの観光客が大幅に増え、穴を埋めている。
中国人が減れば観光は大打撃 → 全体ではわずか4.9%減。
このギャップはなぜ生まれたのか。
1.79兆円の損失試算と、現場の温度差
経済的な打撃は決して小さくない。
野村総合研究所の試算によると、中国・香港からの訪日自粛が1年続いた場合、日本の消費額は約1兆7900億円減る。
GDPを0.29%押し下げるとされている。
春節期間だけで485億円の損失との見方もある。
数字だけ見れば深刻だ。
ところが、現場の声は少し違う。
函館山ロープウェイ担当者の声
HBC北海道放送の報道によると──
「個人の客は来ているので、それほど打撃を感じていない。渡航自粛の最初の頃はかなり少なかったが、最近はそれを感じないくらい家族連れの中華系の客が増えている」
団体旅行はほぼゼロに近い。
だが個人客は戻りつつある。
中国政府の呼びかけに強制力はなく、自分の判断で日本に来る旅行者は少なくない。
東南アジアが埋める「中国の穴」
もう一つの変化がある。
中国人客が減った分を、東南アジアからの観光客が急速に埋めている。
| 地域 | 変化 |
|---|---|
| 中国 | 60.7%減(1月) |
| フィリピン(北海道) | ほぼ倍増 |
| マレーシア(北海道) | 約6割増 |
| 新千歳 中国便 | 減便 |
| 新千歳 東南アジア便 | 増便 |
観光地を歩くと、去年まで聞こえていた中国語に代わり、タガログ語やマレー語が増えていることに気づくかもしれない。
HBCの取材でも、すすきのではフィリピン、インドネシア、マレーシアからの観光客が次々と声をかけられる様子が映し出されていた。
この構造変化が一時的なものか、恒久的なシフトなのかはまだわからない。
日中関係が改善すれば中国人客は戻るだろう。
ただ、航空便の増減便という「ハード」が変わり始めている以上、中国依存からの分散が進む流れは簡単には逆転しないのではないか。
この記事のポイント
- 札幌の暴行事件は食事マナーのトラブルが発端で、被害は頭の軽傷
- 中国の訪日自粛は2025年11月以降少なくとも6回繰り返されており、今回は「最新版」にすぎない
- 訪日中国人は60.7%減だが、全体は4.9%減にとどまる
- 東南アジアからの観光客が急増し、中国依存からの構造転換が始まっている
- 同じ札幌で2025年12月に韓国人への暴行事件も発生しており、外国人の安全対策が課題になっている
よくある質問(FAQ)
Q1. 札幌の暴行事件のきっかけは何?
ホテルのレストランで食事マナーをめぐるトラブルが発端。50歳の日本人男性が52歳の香港人観光客をビール瓶で殴打した。
Q2. 中国の訪日自粛はいつから始まった?
2025年11月14日、高市首相の台湾有事発言を受けて中国外務省が呼びかけたのが最初。
Q3. 訪日自粛は何回呼びかけられた?
2025年11月以降、台湾発言・地震・強盗・殺傷事件・暴行と理由を変えて少なくとも6回。
Q4. 訪日中国人はどれくらい減った?
2026年1月は前年同月比60.7%減の38万5300人。全体の訪日客は4.9%減にとどまる。
Q5. 暴行の被害はどの程度だった?
頭に軽いけが(切り傷)。複数メディアが「軽傷」と報じている。
Q6. 中国の訪日自粛はいつまで続く?
日中関係の改善がない限り継続する見込み。ただし個人旅行は回復傾向にある。
Q7. 個人旅行の中国人は日本に来ている?
団体客はほぼゼロだが、個人客は回復傾向。函館山の担当者も「打撃を感じていない」と語る。
Q8. 中国人客が減った分はどこが補っている?
東南アジアからの観光客が急増。北海道ではフィリピンがほぼ倍増、マレーシアも6割増。
Q9. 札幌では他にも外国人暴行事件があった?
2025年12月に韓国人男性がすすきの付近で5人組に襲われ前歯3本が折れる重傷を負っている。
Q10. 経済損失はどれくらいになる?
野村総合研究所の試算では訪日自粛が1年続けば約1兆7900億円の消費減、GDP0.29%押し下げ。
リアルタイムニュースNAVI 編集部
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📚 参考文献
- HBC北海道放送「めぐりトラブル…札幌での傷害事件で中国大使館が訪日自粛呼びかけ」(2026年2月20日)
- HBC北海道放送「『日本人に暴行を受け負傷』中国が訪日自粛を呼びかけ」(2026年2月20日)
- 中央日報日本語版「『日本で中国人が襲撃』…中国、またも日本への渡航に対して自粛勧告」(2026年2月19日)
- 中央日報日本語版(MSN経由)「『日本で中国人が殴られた』中国激震、渡航自粛を再勧告」(2026年2月19日)
- UHB北海道文化放送「中国人男性が頭を瓶で殴られケガ」(2026年2月18日)
- STV札幌テレビ「ビール瓶で中国籍の旅行客の頭を殴打」(2026年2月18日)
- Record China「韓国人観光客が札幌で暴行被害、前歯折る重傷」(2026年2月3日)
- 日本経済新聞「訪日客1月4.9%減、4年ぶり前年割れ」(2026年2月18日)
- 野村総合研究所「中国政府の日本への渡航自粛要請で日本の経済損失は1.79兆円」(2025年11月18日)
- HBC北海道放送「中国団体客が激減、中国政府の渡航自粛影響も」(2026年2月20日)